なぜAppleはiPhone 4のアンテナ感度問題を見過ごしたのか

 集団訴訟を起こされるなど巷を騒がせていたiPhone 4のアンテナ感度問題、全ユーザーに筐体カバーを配るというアップルらしい方法で、一応の収束をみそうな気配。


 Jobsさんは設計ミスを否定しているが、Tech-On!の気合の調査レポート

iPhone 4のアンテナ問題,分解で浮き彫りになった原因 | 日経 xTECH(クロステック)

を見る限り、原因は設計ミスに限りなく近いと思える。「アンテナ技術に1億ドルを投じている」と吹聴するアップルが、なんでこんなミスを犯したのか? 素人なりに考察してみたい。


 Tech-On!レポートからの推測だが、今回の設計ミスの本質は「特定の握り方をすると、複数系統のアンテナの利得がすべて落ちてしまった」という点にある。


 多くの携帯電話は、送受信用のアンテナを2系統以上備えている。理由は複数あるのだが、その一つは、アンテナを内蔵した個所を手で覆われることでアンテナの受信感度が落ちるのを防ぐためだ。


 人体は携帯電話の電波を吸収するので、アンテナ部を手で覆ってしまうと、電波の強度は大幅に低下してしまう。このため一部の携帯電話には、異なる場所に複数系統のアンテナを収納することで、どこを握ってもアンテナの受信強度を維持できるようにしている。


 (ちなみに、折り畳めるクラムシェル型ケータイの場合、中央のヒンジ部にアンテナを収納する場合が多い。理由の一つは、通話時にヒンジ部を完全に覆うような持ち方をする人がまずいないため)


 さて今回のiPhone4のアンテナは、筐体下部にぐるりとめぐさせたアンテナと、筐体左下に内蔵したループ型アンテナの二本が確認されている。


 このうち前者は、アンテナの電極が左下部に露出している。この部分に手が触れると、手を通じて他の金属部とアンテナが結合、アンテナの特性が著しく変わって利得が劣化すると思われる。


 つまり、いずれのアンテナも筐体左下が弱点になっていて、その部分を手で覆ってしまうと、アンテナが2本とも利かなくなってしまうのである。本来は位置を離すべき2つのアンテナを近接させてしまったことが、今回のアンテナ騒動の根本原因と思える。


 多くの部品が密度高く詰まっている携帯電話では、設計者にとってアンテナの設置スペースをひねり出すは至難の業。Jobsからは「少しでもスペースがあれば電池の大型化に使え!」「筐体に可能な限り金属を使え!(金属筐体だとアンテナが設置できる場所が大幅に制限される)」とのプレッシャーがかかる。しかもスマートフォンの場合、折り畳み型のような「ヒンジ部」という万能の設置スペースがない。で、仕方なく左下部にアンテナが集中、しかもアンテナの電極部が露出、という危険な設計になったのではなかろうか。


 では何故アップルは、テスト段階でこの問題を深刻に捉えなかったのか? ブルームバーグ報道では、エンジニアの一人がこの問題を指摘していたが、Appleは深刻だと認識していなかったようである。iPhone4のテストユーザーは何も感じなかったのか・・・。


 !そういえば、例のGIZOMODE盗難騒ぎのとき、バーに落ちていたのは、「iPhone3GSに偽装した新型iPhone」だったか。


飲み屋に落ちてた次世代iPhone徹底解剖(その2) | ギズモード・ジャパン


 テスト機にもれなく偽装用カバーがついていたとすれば、アンテナ利得が低下する問題は起こらない。テストユーザーがまったくこの問題に気づかなかったのも納得である。先の盗難騒ぎといい、どうにもお騒がせなiPhone試作機だった、ということか。