なぜソニーは凸版印刷、KDDI、朝日新聞と組んだのか

 私にとって電子書籍は、仕事上はカバー範囲外ながら、1人の物書きとしては大変興味ある分野である。そこで、公開情報をもとに「なぜソニーは日本市場で4社連合を組んだのか」について、現時点での仮説を備忘録として書き留めておこうかと思う。


 今回の4社発表会は、各社の狙いがなんとも分かりづらいものだった。「企画準備会社を設立」「4社が均等出資」「1500万円ずつ」という情報では、まだ4社の本気度は測りようがない。事業会社に昇格したときの出資構成をみるしかない。


 ただ一つ明らかなのは、ソニーは今回、自ら配信プラットフォームを手掛けるスキームを、日本市場に限っては断念したことだ。米国で市場が立ち上がったSony Reader、KindleiBookは、いずれもソニー、アマゾン、アップルが自前で出版社と直接交渉し、DRMやビューアーも自ら用意している。ソニーは日本でのみ、世界と全く異なるスキームで市場開拓に臨むことになる。
追記:ソニーは欧州などでは書店と組むなど異なるスキームも採用している、とのツッコミをいただきました。失礼しました〜


 これは、ソニーの過去の失敗に照らせば賢明な判断だ。なぜ日本で電子書籍が盛り上がらなかったかといえば、出版社が「一定規模に普及したプラットフォームにしかコンテンツを出さない」という気質を持っていたためだ。


 国内出版社は世間で言われるほど電子出版に消極的ではない。多くの漫画コミックが携帯電話で読めるし、PSPやiPhone、iPadでの配本も既に始まっている。これらの共通項は、いずれも、ほぼ数百万台という普及を実現済み、または実現が見えている機器、つまり「プラットフォームとして成立している機器」であることだ。


 小さなプラットフォームに電子書籍を配本しても、日本では権利処理の手間賃(数万円)すらまかなえない。ここに、電子書籍に特化した端末であるKidleやSony Readerが日本に進出できない理由、そして過去のリブリエが失敗した理由の一つがある。


 では、国内で書籍端末市場を立ち上げる鍵は何か? 私は3つあると考えている。


 1つはiPhoneiPad、Andoroid、PSPなど、既に普及した汎用機へアプリを配信し、プラットフォームの規模を可能な限り大きくすること。もう一つは、新刊について数百〜数千部ほどを買い取る仕組みを用意すること。国内では取次が初版を買い取ることで出版社に一種のファイナンスを実施しているが、その役割を肩代わりする。ここまではどのプラットフォーマーも採用するだろう条件だ。


 そして3つめ、最も重要な要素が、電子書籍ステークホルダーを抱える一種のコンソーシアム的仕組みを用意すること。DRMを含めた規格の策定について、出版社を含めたステークホルダーの一部に決定権(Steering Commiteeとしての投票権)を引き渡す。かつてDVDやBlu-rayで、ハリウッド業界を巻き込んで一定の成功を収めた手法である。


 今回は4社がコンソーシアムでなく準備企画会社という点が光ディスクと異なるが、これは意思決定スピードを高め、サービスのローンチを可能な限り早めるための策だと思う。4社の構成は、ソニー(端末)、KDDI(通信)、凸版印刷(傘下に90%出資の電子書籍取次を抱える)、朝日新聞(コンテンツ)と、たたき台となる仕様を決めるには申し分ない。記者会見で4社は「競合他社の参加は拒まない」と明言している。


 恐らくだが、この4社連合はiTunesのようにマーケットストアまで独占することは考えていない。それをやると、「ストアで新潮社の書籍が集英社より目立った場所に置かれているのはなぜか」のような問題が噴出し、出版社がスキームに乗りにくくなるためだ。4社連合は、規格策定とビューアの提供に徹し、マーケットストアはソニーKDDIなどが独自に運営すると考えるのが自然だろう。例えば、ソニーは「Sony Reader」向けには自社でマーケットストアを運営。だけど、KDDIのショップで購入した書籍もSony Readerで閲覧可能、といった具合。


 ・・・もうちょっと細かく事業モデルの予測は立ちそうなのだが、もうお仕事の時間なので今日はここまでにしておきます。