【書評】自分をデフレ化しない方法

 勝間和代氏の「自分をデフレ化しない方法」を読んで戦慄した。

 
 彼女が本書で主張する景気回復策は、デフレの解消を最優先とし、政府が30兆円の国債を新たに発行し、日本銀行が直接引き受ける案だ。この30兆円は子育てや福祉などの公共投資にあてる。


 金融政策としてのリフレの是非はともあれ、国の借金をこれ以上増やしていいのだろうか? この素朴な疑問に対し、勝間氏はこんな例え話を提示した。このまま少子化が進めば、2000年後には日本国民が一人だけになる。その人は国民としての国債という資産と、政府としての国債という負債を同時に持っている。だから、負債は資産で帳消しにできる。


 それって、政府部門による家計部門の富の収奪以外の何だというのかしらん。


 日本人が二人だけ("政府"さんと"家計"さん)になったと考えれば、ロジックは明確だ。"家計"さんが働いてコツコツと貯金し、資産を国債として保有していたとする。そこに、国債という負債を持つ"政府"さんが、「このままではボクが破産するから、ボクの借金を帳消しにしてくれ!」とせがむ。国民は2人だけだから、"家計"さんが持つ国債を買い取ってくれる人は誰もいない。国民として、"政府"さんを破産(国債デフォルト)させるのも気が引ける。泣く泣く"家計"さんは、地道に働いて得た国債を雀の涙ほどの安値で”政府さん”に譲り渡す…


 経済評論家の大前研一氏は「日本政府は、いざとなったら国民の1300兆円の資産をパクリにくる」と常々警告していた。


 政府はいざとなれば日本円を増刷してハイパーインフレを起こすことで、負債を容易に圧縮できる。もちろんそのとき、国民の資産は実質的に大きく目減りする。あるいは、郵便貯金の限度額を高めて預金を集めておくことで、金利が上昇→国債が暴落→ペイオフで預金者の資産を目減りさせる、などのハードや収奪シナリオもありえる。


 いま、日本のソブリンリスク(国債リスク)がギリシャのように顕在化していないのは、国民が(郵便局や銀行を通じて)国債をせっせと買い続けているという事実によるところが大きい。勝間氏も、あるいは金融担当の亀井静香氏も、こうしたロジックを熟知した上で、「富の収奪」に向けた下地を整えているように見えて恐ろしい。