【書評】M&A国富論−−ちょっと無理がないか?


 民主党が「公開会社法」なる法律を検討しています。ウェブ上でも


池田信夫 blog : 「公開会社法」が日本を滅ぼす
公開会社法なる法律を作ろうとしている奴がいるらしいが | 堀江貴文オフィシャルブログ「六本木で働いていた元社長のアメブロ」


 など議論が沸騰するなか、これは読まねばと思ったのが「M&A国富論」でした。株主至上主義でも資本鎖国主義でもない、新たなM&A資本主義の道を模索します。

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 本書の前半は、日本および世界の企業ガバナンスの解説として秀逸です。買収後の企業価値を過大評価した(=思い上がった)会社が買収に成功してしまう「勝者の呪い」、会社の価値によらず”みんなが買っている株”を買うことが合理的戦略になる「美人投票」など、M&Aに関する制度的問題点を丁寧に解説しています。大変勉強になりました。


 一方、どこか違和感がぬぐえないのが後半です。国富(=GDP)を最大化するM&Aの制度設計について、筆者の主張は次の二つに集約されます。


1.(現経営陣の同意なく)株を20%以上買い進めた場合は議決権を失う。合併交渉が不調に終わった場合は委任状争奪戦(プロキシーファイト)で争う

2.ある会社がTOBを仕掛けた場合、他の会社は「対抗提案」としてTOBを仕掛けられない


 ・・・うーん、意図は分かりますが、一読して「あまりに無理がある制度設計ではないか」と感じますがいかが。


 1.については「企業とファンドと協調して19.9%ずつ取得した場合はどうなるんだろう」という疑問が脊髄反射的に浮かびます。上記の場合、3分の1を超える議決権を苦もなく取得できてしまいます。経営陣が発動の可否を決める他の防衛策と違い、この制度は20%を超えると自動的に発動するだけに、発動の基準にあいまいな点があるのは致命的なのでは。


 2.を導入した場合、「第三者に、誰も本気にしないくらい低い取得価格でTOB提案してもらうのが最強の買収防衛策」になるんじゃないでしょうか。誰かが敵対的TOBを仕掛けそうと噂を耳にした段階で、ダミー会社にTOBを仕掛けてもらえば、その間は誰も手が出せません。


 1、2、とも、こうした抜け穴を塞ぐため、裁判所への異議申立制度など運用面で解決できる可能性はあります。でもその場合法廷闘争が入るという現行の制度の弱点がそのまま現れてしまいます。これじゃ何のための提案か分かりません。

 
 上記見解は、会社法の専門家ではない一個人の感想であり、大きな論理の穴があるかもしれません。反論あれば是非。