【科学報道】祝!ノーベル物理学賞,と素直に喜べない理由

 ノーベル物理学賞南部陽一郎氏,小林誠氏,益川敏英氏の3人を選出された。南部陽一郎氏は「自発的対称性の破れ」,小林氏と益川氏は「CP(charge and parity)対称性の破れ」の理論に対するもの。物理学を志したものとして,これに勝る喜びはない。

2008年のノーベル物理賞は,南部氏,小林氏,益川氏の3人に | 日経 xTECH(クロステック)


 ・・・のだが。今回のノーベル賞ほど,賞の意義に対する疑念を沸かせるものはない。3氏とも,物理学者の間では知らなきゃモグリな著名研究者である。「いずれ必ずノーベル賞を取る」として学問的,世俗的評価はいずれも固まっている。物理を志すものなら憧れの対象を超え,もはや偉人といえる存在。


 では今回のノーベル賞は何だったのか?マスコミに一時的に大量消費される偶像を増やしただけなのか。あるいは,トラブルが絶えないLHC(大型ハドロン衝突型加速器)へのテコ入れという政治的含意があるのか,と勘ぐってしまう。益川氏がNHKの取材に対して「今さら世俗的な賞を与えられても,ぜんぜん嬉しくない」と仰ったのは,まさに本音であったと思う。あるいは,「もう毎年1回マスコミに追い立てられずにすむ」と安堵されておられるだろうか。


 やはり賞とはタイムリーに与えてこそ,賞である。3氏の理論がほぼ理論物理学の統一見解に昇華した段階(〜1980年代)でノーベル賞を授与すべきだった。現役で教壇に立ち,学会をリードする研究者に賞を与えてこそ,若者はその背中に憧れるのだから。あるいは,せめて3氏の理論が実験で実証された段階(〜1995年)ですぐに賞を与えられなかったか。

 
 というわけで,今後3氏を取り上げるマスコミの皆様に一言。今回のノーベル賞受賞を取り上げるなら,3氏を執拗に追い掛け回してプライバシーを暴いたりせず,対称性の破れを実証してみせた「実験屋」の皆様に光を当ててほしい。南部氏の40年以上前の成果,小林・益川氏の30年以上前の理論が21世紀に入ってから改めて注目を集めたのは,何より何千人,何万人もの実験物理学者の地道な努力があればこそ,なのだから。