【書評】中国市場のダイナミズムを表す「垂直分裂」

 一ヶ月ほど全力で取り組んでいた中国特集の執筆が終わり(中国の技術開発力を味方に | 日経 xTECH(クロステック)),ゆっくり本を読む時間もとれるようになった。1カ月に1本くらい,と考えていた当ブログだが,更新の幅をもう少し縮めてみたい。


 丸川知雄氏の「現代中国の産業」を読了した。


 「水平分業」ではなく,「垂直分裂」。

 去年から中国で取材する機会が増えた私にとって,この本は大変刺激的だった。テレビやケータイ,自動車に至るまで,今まで垂直統合で成り立っていた産業が,「政府の指導」と「旺盛な起業精神」という二つの力によって強引に分裂させられ,事実上の水平分業体制を成立させる。そんな中国のダイナミズムを表す言葉として,「垂直分裂」はぴったりの言葉だ。


 ただ筆者も指摘しているように,本当に垂直分裂の体制がこのまま持続するとは言いがたい。垂直分裂は,製品の同質化を招き,低価格化競争を起こしやすい。中国企業にとってはゼロサム,いやマイナスサム・ゲームとなりがちだ。


 過当競争を避けるために,中国企業がとり得る道は二つある。一つは,中国の激烈な競争で培った価格競争力を武器に,海外市場に進出すること。もう一つは,基幹部品を自社で開発・生産する垂直統合化に踏み切ることだ。


 特に前者の戦略に不可欠なのは,世界に通用するブランド力である。一部の中国企業は,2008年夏の北京五輪を,自社ブランドを世界に発信する絶好の機会と見据えているだろう。