【電子産業】IPTV機器のユーザー・インタフェースを考える

 CNET Japanのブログで,個人的に尊敬するソフトウエアの大家,UIEvolutionの中島氏が,日本のIP放送受信機(IPTV機器)のユーザー・インタフェース(UI)について,興味深い指摘をしている(「IPTV Service Architecture(FG IPTV-ID-0094)」に対するフィードバック)。IPTV機器のユーザー・インタフェースを機器側が決める現行の仕組みでは,コンテンツ事業者は良質のサービスを責任を持って提供できない。ならば,IPTV機器側は,コンテンツ事業者がUIをコントロールするための共通プラットフォームを用意し,UIの制御を委ねるべきだ・・・というものだ。


 確かにコンテンツ事業者からみれば,サービス向上を図る上でも,UIの制御権を握るのはきわめて重要だ。その意味では「IPTV事業を立ち上げるには,まずコンテンツ事業者にUIの自由度を与えるべき」という中島氏の考えは筋が通っている。ただ,機器メーカーおよびユーザーの立場に立ってモノを書いている私としては,機器メーカーが完全に明け渡すことはない,いや,あってはならないと考えている。中島氏に胸を借りるつもりで,私のユーザー・インタフェース観について簡単にまとめてみたい。


 私が上記のように考える理由は二つある。一つは,機器メーカーにとってUIこそ,ビジネスの主導権を握るための鍵だからだ。以前にこの事を雑誌のブログで考察書いたことがあるが(http://techon.nikkeibp.co.jp/article/TOPCOL/20060221/113459/),ここではApple社の例を挙げれば十分だろう。Apple社が音楽配信で成功した理由の一つに,自ら魅力あるUI(というより,ITMSiPodなどのユーザー・エクスペリエンス全般)をユーザーに提供することで,ユーザーの情報からDRMまですべてを自社で管理できたことがある。あまりコンテンツ事業者の意向に従いすぎると,魅力あるUIを引っさげたApple社のような企業に,またも美味しいところを奪われかねない。


 もう一つの理由は,ユーザーにとって,コンテンツ事業者ごとにUIがころころ異なっては,UIに慣れることができず使いにくくて仕方がないからだ。ユーザーにとって,一度購入したIPTV機器は数年固定して使うだろうが,コンテンツ事業者を数年固定して使おうと考える人は多くない。今,日本でテレビの地上波放送がコンテンツ事業の王者として君臨しているのは,どのチャネルだろうがリモコン一つで視聴できるという,コンテンツ非依存なUIのためではないかと思う。


 では,ユーザー,コンテンツ事業者,機器メーカーがそれぞれWinWinWinになるには,どんな仕組みが最適なのか? 無難な考え方ではあるが,IPTV機器特有のUIをメインとし,その上でコンテンツ事業者が制御できるUIを共存させることだ,と私は考える。ユーザーは,好みに応じていずれのUIも使うことができる。


 例えばソニーの機器であれば,ユーザーはXMBクロスメディアバー)で一般の放送チャネルとIPTVチャネルをシームレスに選べるようにする。その上で,ユーザーがコンテンツ事業者固有のサービス(例えばSNSとか)を利用するときには,ブラウザを起動するなどしてコンテンツ事業者にUIの制御権を与えればいい。松下の機器であれば,同社のUIプラットフォーム「SEADEngine」上で,松下固有のUI,コンテンツ事業者のUIを選択できるようにすればいいだろう。


 むしろ電機業界とコンテンツ業界が一丸となって行うべきは,IPTV機器とコンテンツ事業者の配信サーバをつなぐAPIの統一ではないか。IPTV機器からケータイ,パソコンと,配信相手によって配信システムが異なっては,配信のコストが掛かりすぎてビジネスにならないからだ。統一したAPIを作ることができれば,コンテンツ配信に要する費用を大幅に削減できるだろう。